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フィンランドの森便り8月

8月上旬には場所により多少残暑も残りますが、中旬も過ぎると全国的ににわかに秋めいてきます。朝晩の気温もぐっと下がってきて、時には肌寒いくらいです。低地では朝晩にあたり一面にうっすらと霧が立ち込めたりすることもあります。北部ラップランドの山岳地帯では木々や下草がほんのりと色づき始め、間近に迫った紅葉の季節の到来を告げます。

鐘形の小花が満開のカルーナの群落

乾燥した松林や貧栄養性の湿原で大きな群落を形成しているのはツツジ科のカルーナです。よくエリカと混同されますが、実際エリカはフィンランドにほとんど自生していませんし、カルーナの葉は鱗片状で、エリカとは異なっています。帯紫紅色や淡紅色の花が普通ですが、まれに白色花もあります。この時期に蜜蜂がせわしく蜜を集めるのがこのカルーナの花です。カルーナは別名ハイデソウとか、ギョリュウモドキとか呼ばれることがあります。

白花または淡紅花をつけるセイヨウノコギリソウ

この時期の野山の代表的な花は、とりわけ花期が長く、ほぼ全国的に分布しているノコギリソウの仲間とホソバウンランです。ノコギリソウはセイヨウノコギリソウとエゾノコギリソウの2種類が国内で普通に見られます。林縁、空地、野原には、アキノキリンソウ、ヤナギタンポポ、タンジーといったキク科植物の黄花、オトギリソウ科ヒペリウム・マクラツムの黄花、マツムシソウ科クナウティア・アルベンシスの薄紫色の花が目立ってきます。また、湿地にはシソ科のスタキス・パルストリスやハッカの花が時たま咲いています。赤く熟したドイツスズランの果実

秋に向けて森や野原では様々な植物の果実も熟してきます。特にドイツスズラン、そして落葉性の小潅木、ジンチョウゲ科ダフネ・メゼレウムの鮮紅色の果実、ヒメマイヅルソウの小さな赤い液果、ナス科ソラヌム・ドゥルカマラの透き通るような赤い実に興味をそそられます。どれも見かけに反して有毒で食用になりません。

青空市場に出回る在来種のザリガニ

青空市場に出回るアメリカザリガニ

フィンランドでは、他の北欧諸国同様、この季節にザリガニを賞味します。7月21日正午になると全国一斉にザリガニ漁が解禁になりますが、旬はやはり8月以降です。国内の湖沼・河川には在来種のザリガニと放流された外来種のアメリカザリガニの2種類が生息しています。青空市場では、出始めの頃の値段は一匹につき5ユーロ前後もします。レストランではザリガニ料理は高価なものなので、予約が必要です。前菜として食べることが多く、氷室で冷やしたウオッカとカリカリに焼き上げたトーストパンと一緒にいただきます。

野生のヤマドリタケ

晩夏を迎えると、森のキノコもたくさん発生してきます。イタリア料理などでよく使われ、大変美味な食用キノコとして知られているヤマドリタケは、別名イタリア語でポルチーニ、フランス語でセップとも呼ばれることがあります。このきのこは樹木の根に菌根を作って共生する菌根菌であるため、マツタケ同様、人工栽培は困難であり、そのため野生の採集したものだけが流通しています。最近では、フィンランド東南部からイタリア向けに高品質なポルチーニが輸出されています。

参考サイト:花と森歩きの達人 宮澤豊宏さんと歩くフィンランド花と森のハイキング